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ジュネーブで過ごした時間(の一部)を、非公式な日記として少し紹介しようと思う。

日曜日: マンダリン オリエンタルでオークション&ウォッチトーク

今週ジュネーブで過ごした私の腕には? ロレックス コスモグラフ デイトナ 126529LN “ル・マン”が巻かれている。

午前9時頃、ジュネーブに到着した私はホテルへと向かい、チェックインを終え、シャワーを浴びて身支度を整えた。その日曜日、私が特に見たいと思っていた数点を、サザビーズが出品していたのだ。当初気づかなかったが、オークションのためにマンダリンまで足を運んだことで、何年も会っていなかったコレクターコミュニティの中枢へと足を踏み入れることになる。マンダリンのメインエントランスからバーまでのわずか15フィート(約4.5m)のあいだに、マイケル・サフディ(Michael Safdie)、ロレックススーパーコピー時計ダビデ・パルメジャーニ(Davide Parmegiani)、そして友人のウェンディとアモス(ふたりはシンガポールにいる素晴らしいランゲコレクターだ)と出会った。

彼らに挨拶をしたのちセキュリティーを通過すると、唯一無二の存在であるクロード・スフェール(Claude Sfeir)がいた。クロードは伝説的なコレクターで、オークション界の中心人物である。彼は体調を崩したり、その前にはCOVIDが集まりを妨害していたため、お互いに会うのは何年かぶりだったが、彼は相変わらずとても親切で思いやりのあるコレクターだった。クロードと十分に挨拶を交わしたあと、私はオークション会場に向かった。すると会場の奥にいたロジャー・スミス(Roger Smith)を見つけた。彼が手掛けるプラチナ製のダニエルズアニバーサリーウォッチが、この後のオークションに出品される予定だったのだ。ロジャーは私の大好きな時計関係者のひとりなので、私は彼のところに行ってみた。すると彼は、何か違うものを身につけていることに気づく。プラチナ製のランゲ ダトグラフのファーストシリーズだ! これが“ダトー”(貴族に相当する称号)のお墨付きでなくて何なのか。

アニバーサリーウォッチセールの前にまだいくつかのロットが残っていたので、我々はロビーのバーにあるテーブルを囲んだ。そのグループにはロジャー、クロード・スフェール、私、ハムダン・ビン・ハマド(Hamdan Bin Humaid)というとても素敵な男性(私はすぐに、ネットで見た中東の独立時計に関する素晴らしいプロジェクトの仕掛け人だと気づいた)、偉大なアメリカ人コレクターのマイク・S、HODINKEEのマライカ・クロフォード、そしてときにほかの数人がいた。テーブルを囲んだ時計をいくつか紹介しよう。

そう、こんな感じだった。しばらくしてから我々は皆、ロジャーの時計を見るためにオークションルームに戻った。これもまた、彼が2008年に工房設立のために売却した私物の時計だった。このロットは極端なスタイルで行われた。スフェールを含む4人の入札者と2人の電話入札者(そのうちのひとりはアメリカからのものと思われる)により、210万スイスフラン(日本円で約3億5580万円)以上で落札されたのだ。ほんの数年前ならむしろ誤解していたであろう時計にとっては、信じられない結果だと思う。

オークションのあと、何人かはロビーのバーに戻って昼食をとり、数時間話し込んだ。とても楽しい人たちとの素敵なソフトランディングで週のスタートを切れたことをうれしく思う。

月曜日: ラート美術館にてGPHG審査員として投票

前述したように、ジュネーブ時計グランプリ(GPHG)は、“時計界のアカデミー賞”のようなものだ。10年前、私に初めて審査員の依頼が来た。それ以来状況は大きく変わったが、最終的にGPHGは、毎年完璧ではないにもかかわらず(すべてのトップブランドが参加するわけではない)、高級時計製造のための絶対的に優れた賞であり、非常に高い評価を得ている。私は審査員として、事前に選ばれた候補の時計が並んだ部屋に12時間近く座り、議論し、無数のカテゴリの勝者に投票した。世界の偉大な専門家たちに囲まれながら、すべての時計を手にして詳細に見られた素晴らしい日である。しかしGPHGを特別なものにしているのは、審査員の質だ。私の朝のテーブルはマックス・ブッサー(Max Büsser)とヴィアネイ・ハルター(Vianney Halter)とモハメド・セディキ(Mohammed Seddiqi)だった。この3人は時計に詳しいと言えるだろう。

ヴィアネイ・ハルターが私の時計をチェックしている。

5つのカテゴリのあと、テーブルが入れ替わる。私の次のグループには、審査委員長のニコラス・フォルケス(Nick Foulkes)や、私が以前から会いたいと思っていた、東京に拠点を置く彼の名を冠したウォッチブランドを手掛ける飛田直哉がいた。情熱は言うに及ばず、その知識量には本当に感心させられた。ジョージ・バンフォード(George Bamford)、マーク・チョー(Mark Cho)、ダニエラ・デュフォー(Daniella Dufour)、クリスティアン・ハーゲン(Kristian Haagen)、Dimepieceのブリン(Brynn)など、昔からの友人たちにも会うことができた。ここでは、2023年のGPHGで候補に挙がっていたいくつかの時計を紹介しよう。

この日たくさんのことを考えていたが、12時間にもおよぶ審査はいつも驚きを与えてくれる。例えば、ジェブデ・レジェピ(Xvedet Rexhepi)の時計の美しさとか。今年の初めに完成予想図が公開されて以来、実機が見たくてたまらなかったこの時計は、想像していた以上に素敵だった。長いラグ(ある意味では、弟のレジェップがJPハグマンとともに製作したものに似ている)、細身の輪郭、そして考え抜かれた複雑機構は期待以上だ。しかし、これはまだ本来の機能を果たしていないプロトタイプだったため、今年のGPHGの投票では候補から外された。しかし、若いレジェピの未来は明るいと言えるし、この時計のために予約をした人たちは今後の展開に自信を持つべきだ。そして来年のGPHGで彼と再会できると確信している。

明るいパウダーブルーの文字盤は現代的だ。

リヤキャリバーはアンティークのように見える。私はこの組み合わせが大好きだ。

そのほかの感想としては、スタジオ・アンダードッグによるシーガル社製クロノグラフの解釈が素晴らしかったことだろうか。この非常に魅力的なレイモンド・ウェイル(同部門で優勝)もそう。私は至って真剣だ。下の写真は、この時計を正当に評価しているわけではないが、ケースと文字盤は非常によく考えられていて完成度が高く、チャレンジカテゴリでこの時計以外を考えるのは難しかった。

いいデザインだ。

そして素晴らしい出来栄えで、素晴らしい価値がある。

この実機を見れば、同ブランドに対する考え方は変わるだろう。

もうひとつの傑出した時計は、ペテルマン・ベダのスプリットセコンド クロノグラフだ。クロノグラフウォッチ部門を受賞したが当然の結果だろう。正直言って、この時計のケースや文字盤は好みではなかったのだが、とにかく素晴らしいムーブメントを載せていた。このふたりは若くて才能があり、今後も目が離せない。

この時計の文字盤、ケース、オーバーサイズのリューズは私の好みではなかった。

ただし、自社製のハンドメイドラトラパンテキャリバーは、まさにこの世のものとは思えないほどよかった。

事前に選ばれた時計の審査と投票が終わったあと、我々は昼食のために休憩をした。私は飛田直哉、マーク・チョー、ステファン・クドケ(Stefan Kudoke)、ヴィアネイ・ハルター、ピエトロ・トマジェ(Pietro Tomajer、The Limited Editionの共同創設者)、ドミニク・ルノー(Dominique Renaud)と同席し、話が尽きることはなかった。しかしここで交わされた会話は、審査員の知識が驚くほど豊富で視点も実に多様であり、GPHGがいかに特別なものであるかを再認識させてくれた。

マックスと私。

ジョージとニック。

ランチのあと我々はラート美術館に再び集まり、ある意味、何でもありで最も激しい争いが繰り広げられるカテゴリへと移った。ただこのエギュイユ・ドール(金の針)と呼ばれる最高賞は、個人投票ではどちらに転ぶかはわからなかったが最も決定しやすい賞だったかもしれない。私はAPのユニヴェルセル RD#4が受賞に値すると確信していたが、ここで言及されたほかの名前は、サイモン・ブレット(今最も話題の独立時計ブランドであり、その夜、権威ある時計界のレベレーション賞を受賞した)、ペテルマン・ベダ、そしてボヴェである。ただ私にとってのRD4は、真の芸術性、革新性、熟慮したデザイン、そして時計製造に関する優れた思考など、エギュイユ・ドールが象徴するすべてのものを備えていた。それに加えて、防水性、工具風用でセット可能であるだけでなく、自動巻きも可能というメガコンプリケーションを備えている。以下に簡単な画像を載せておく。